タイトル:ワイルド・ソウル 上・下
作者:垣根涼介
出版社:幻冬舎文庫
文庫で上下巻と、けっこうボリュームのある小説なのですが、一気に読み切ってしまいました。
この国が、たとえ戦後の尋常ならぬ困窮の中にあったとしても、人道を外れた政策を推進していたとは。
アマゾン開墾の為の南米移民、と言えば聞こえは良いですが、その実、口減らしの為の棄民政策。
読んでいて、正直そら寒くなりました。
いま、世は未曾有の不況だと言われていますが、このままじり貧になってくれば、この国が同じことを繰り返さないとは言い切れないのが一番恐ろしい。
次は東南アジア?特亜の僻地?
開墾済みの土地、潅漑設備も完備された農場で、南米で作られていない野菜を作れば大農場主として成功できると甘言を弄し、集まった国民を実際に送り込む先は、開墾済みの畑はおろか、家も桟橋すらない熱帯雨林。
強い酸性の痩せた土地に、地表数センチしかない腐葉土。
それも雨期に氾濫するアマゾンに押し流され、作物など望むべくもない土地。
さらに野生の猛獣や伝染病の恐怖。
そしてその現状を把握していながら、何の対策も、移民の訴えに耳を傾けることすらしない領事館。
物語は、そんな過酷で凄惨な過去を持つ、3人の男達を中心に物語は進んでいきます。
自分達に暗い過去を背負わせた日本政府に復讐する。
その目的の為に集まった3人は、それぞれの過去と今を抱きながら、緻密に組み上げられた計画を実行していく。
フィクションながら、現実にあったこの国の愚策と、それに翻弄された人々の苦悩を緻密に描いているので、強烈なリアリティが感じられます。
計画の進行もテンポよく、周囲の人間をも巻き込んで進んでいくストーリーは、読者を決して離さない魅力にあふれています。
帯に書かれた”これぞ小説!”というキャッチコピーと、読者の期待を裏切らない小説です。
コメント
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